事例紹介インタビュー レンコン栽培への気候変動の影響とその適応について

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秋が深まった2021年11月30日。「徳島県学生地球温暖化防止活動推進員」でまた、「徳島県気候変動適応推進員」として活動をされている山崎奈津実さんが、板野郡藍住町にある「鳴門藍住農業支援センター」を訪ね、レンコン栽培への気候変動の影響とその適応について、沢田英司さん(鳴門藍住ブランド推進担当 課長補佐)からお話を伺いました。

レンコン栽培への気候変動の影響について

山崎さん:現在、地球温暖化によって気温の上昇、台風の発生など、気候変動の面において様々な影響が表れていますが、レンコンの栽培は気候変動の影響を受けていますか。

沢田さん:台風による被害を受けるようになってきています。今年も被害がありました。レンコンの生育の重要な時期に台風が来ると、風による倒伏等の影響により、十分な収量を得ることができなくなります。今年は8月上旬に台風が通過したことで、倒伏等がみられました。その後にもう一度芽を出し直しましたが、充実しないまま秋を迎えたために、レンコンに傷みや腐りが見られています。こうしたことが、ここ近年多い傾向にあります。また、以前は、冬はレンコン田は凍っていましたが、近年はそうしたことも無くなってきています。レンコンは、冬は休眠する方が良いのですが、近年は気温が高いために休眠せずに成長し、エネルギーを消費してしまいます。そのため、レンコンの持ちが悪くなってしまいます。気温が上がることにより、生育ステージが変わってしまうということについても、悪い影響を受けています。

山﨑さん:レンコンは暑さに強いイメージがありますが、気候変動の影響を受けているのですね。

沢田さん:レンコンは品種選抜によって、北の地域でも栽培ができるようになってきていて、以前はレンコンの栽培が難しいとされていた新潟や仙台といった地域でも栽培が可能となってきていますが、亜熱帯性の植物です。亜熱帯性の植物なので夏は強いですが、近年は、以前に比べると台風の勢力が強くなっているため、風の影響を強く受けています。レンコンは葉が大きいため、台風で強い風がふくと、根元から倒れてしまいます。また、冬に暖かくなることは、本来、レンコンが休眠している時期にも根が伸びて、どんどんエネルギーを消費してしまいますので、レンコンの持ちが悪くなってしまうのです。

山﨑さん:腐ってしまうということですか。

沢田さん:植物の中にデンプンがたくさんあれば長持ちします。デンプンが糖になり、糖が消費されてエネルギーになります。冬の気温が高いと、冬でもレンコンが成長し、糖がずっと消費されてしまうので、貯蔵養分が春先には少なくなってしまいます。昔の気候と現在の気候を同時に比較することができないため、気候変動による影響を証明することは難しいですが、農家さんに聞くとそういう傾向があると聞きます。

山﨑さん:冬の気温が高いことによる影響があるとは思いませんでした。現在、徳島県で一番栽培されているレンコンはどのような品種ですか。

沢田さん:徳島県では、明治時代に岡山県から入ってきた「備中」という品種をメインの品種としていました。ただ、「備中」は、台風がきた時の被害が大きいです。「備中」はお盆をすぎる頃に肥大します。そのため、お盆の後に台風がきた場合は、肥大しているため影響は少ないのですが、肥大するお盆の前に台風がくると、被害が大きくなるということが欠点としてあります。また、病気に少し弱いです。数年前までは、栽培面積は「備中」が徳島県で一番多かったのですが、最近は病気に強く、「備中」より早く収穫できる品種の「ロータス」に切り替わってきています。徳島県でのシェアは現在、「備中」より「ロータス」が多くなってきています。徳島のレンコン田では、現在、赤色と白色のレンコンの花が見られます。かつては、「備中」がつける赤色の花が殆どでしたが、現在は、「ロータス」がつける白色の花がよく見られるようになってきています。ただ、「ロータス」は、レンコンが土の浅い場所にできる特徴があります。「備中」は土の深い場所にレンコンができるので、土の中の温度が低いために冬は休眠しやすくなります。一方、「ロータス」はレンコンが土の浅い場所にできるので、土の中の温度が高いために休眠がしづらく、エネルギー消費が激しくなるため、「備中」よりレンコンの持ちは悪くなります。ただし、最近は台風の被害が大きいので、より早く収穫できる「ロータス」で栽培されることが多くなってきています。

山崎さん:全国的に見て、徳島県はレンコンの出荷量は多いのでしょうか。

沢田さん:徳島県は、全国の主なレンコン産地の中でも台風の影響を一番受けやすいこともあり、最近はシェアを落としています。レンコンの主な産地としては、他に茨城県、愛知県、佐賀県、山口県等がありますが、最近の台風は、徳島に影響が大きいコースをよく通ります。台風がどこの産地の上をどの時期に通るかによって、レンコンの出来の良し悪しがはっきり分かれます。台風が産地の西側を通ると、風の影響を大きくなります。徳島県のレンコンの作付面積は現在、全国2位ですが、今後、3位になる可能性はあります。収益が上がらないとやはり農家の方も経営が厳しいです。台風の影響を受けず、病気にもなりにくい品種が出来ればよいですが、なかなかうまくできていません。

☆IMG_0786.JPG↑夏の健全に生育している様子のレンコン田 ※写真提供:鳴門藍住農業支援センター

DSCF0338台風被害.JPG↑台風の被害を受けた後のレンコン田(強風によりレンコンが根元から倒れている) ※写真提供:鳴門藍住農業支援センター

気候変動の影響への適応について

山﨑さん:気候変動に適応した品種として「阿波白秀」という品種が開発されているかと思いますが、その品種はどのようなものなのでしょうか。

沢田さん:「阿波白秀」は、台風の被害を軽減できるよう、早くに収穫できるように作られた品種です。そのため、病気に特に強いというわけでなく、また育てる技術が難しいため、うまく作れる人があまりいないという課題があります。昔からある品種であれば、肥料の与え方等、上手く育てる方法が分かっていますが、新しい品種は、栽培に適した育て方がまだはっきりとしていません。

山﨑さん:「阿波白秀」の普及においては栽培技術の確立が課題なのですね。

沢田さん:「阿波白秀」は、「ロータス」ともう一つ、病害対策品種である「オオジロ」の掛け合わせでできた品種です。台風の被害を受けないように作られた早生品種ですが、掛け合わせの元の「ロータス」や「オオジロ」と比べて、生育が速いというわけではありません。今後、より気候変動に適応した品種の開発を進めることは必要ですが、レンコンの新しい品種はすぐに出来るわけではありません。レンコンは一つの品種を育てるために、広い場所が必要です。また、品種開発のために試験をする土地を農家から借りるのも難しいです。レンコンを栽培すれば本来、儲かるはずの圃場で新しい品種を作ってもすぐに儲けになるわけではないですので、農家の方から土地をお借りするのは難しいです。また、新たな品種を育種するためには、それまでに栽培されていた品種を全て堀り獲る必要がありますが、レンコンは土の中にできますので、それらを全て堀り獲るのは農家の方でも難しいです。

山﨑さん:新しい品種の開発には土地も労力も必要なのですね。

沢田さん:現在は耕作放棄地が増えていますので、そうした場所を活用していくということが展開として考えられます。借りた土地を復旧し、新品種を作って2~3年後に返却するという、土地の貸出を引き受けてくれる人や組織から土地を借りられる体制ができれば、いろいろ取り組めると思います。ただ、耕作放棄地の復旧にも多くの労力がかかります。

山﨑さん:行政と連携することは難しいのでしょうか。

沢田さん:行政とも連携ができればよいですが、行政側も人手不足で実現できていません。病害の研究といった一般の農家にも関係する課題であれば、理解を得られやすいですが、レンコンの新品種を作るということは、徳島の特定の地域に限定した話になるので、行政としても連携が難しいと思います。新品種の開発については、いろいろと方法を考えているところですが、採算がとれる方法はまだ見つかっていません。現在は、使えそうな品種はどんどん試してみて、良さそうな品種があれば若手の農家を中心に切り替えていってもらっています。

山﨑さん:沢田さん、どうもありがとうございました。レンコン栽培への気候変動の影響としては、レンコンは台風による影響に加え、冬の気温上昇による休眠阻害の影響を受けているということですね。また、気候変動の影響に適応した品種としては、台風被害を軽減することを目的として「阿波白秀」が開発されているが、その普及には栽培技術の確立が課題であるということ、また、今後、より気候変動の影響に適応した品種開発に向けた体制づくりが課題ということですね。レンコン栽培への気候変動の影響と、その適応に向けた課題について色々と知ることができました。

PB300002.JPGインタビューにご対応をいただいた沢田英司さん(写真左)と、インタビューを実施していただいた山崎奈津実さん(写真右)

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