事例紹介インタビュー 気候変動による食料危機にむけたグリラスの挑戦

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残暑厳しい2021年10月13日、気候変動適応推進員として活動している森紗綾香さんが、徳島県美馬市にある「株式会社グリラス」の美馬ファームを訪ねました。今回は、代表取締役の渡邉崇人さん、PRマネージャーの川原琢聖さんから、コオロギの食料としての可能性についてのお話を伺うとともに、美馬ファーム内の飼育室をご案内いただきました。

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なぜコオロギなのか

森:コオロギの研究に30年近く前から取り組まれていますが、将来の食糧難やコオロギが課題解決になることを見据えていたのでしょうか。

渡邉:もともとは、コオロギという生き物を使って、受精卵からどうやって生き物の形ができてくるのかという、基礎研究をしてきました。2016年に徳島大学にできた生物資源産業学部に参画することを機会に、コオロギはどんな社会課題を解決していける生き物なのかと考えました。その中のひとつに、将来的にやってくるタンパク質不足に使えるだろうというアイデアがありました。そのような報告書を2013年に国連が出していたことを踏まえ、実際に世界はそういう流れに進みつつあったので、2016年からコオロギを食用に活用していくという研究をスタートさせました。

森:熱帯性のフタホシコオロギに目をつけたのはなぜですか。

渡邉:食用にタンパク質の生産することを考えると、一年中収穫できないといけませんが、日本のこの辺にいるコオロギは冬眠するため向いていません。その時に、一年中飼える研究用のフタホシコオロギに目を付けました。この種は、研究に使うコオロギの中でも個体が大きく、育つのが早いために、タンパク質の生産に適しています。

森:コオロギの一番豊富な栄養素はタンパク質ですが、そのほかに何が含まれていますか。

渡邉:牛などと違い身体全体を粉にすることで、ミネラルやビタミンなどが含まれています。殺菌する過程で熱をかけるので、熱に弱い栄養素はなくなってしまいますが、ミネラルや熱に強いビタミン等は、他の精製したタンパクのパウダーよりも多いです。現在、コオロギが持っている機能性成分を明らかにしていく研究も進めています。

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コオロギの可能性

森:もっと栄養価が高い、もっと大きい品種にする等、コオロギの品種改良はしているのでしょうか。

渡邉:徳島大学およびグリラスがもっとも強い部分は、ゲノム編集技術を持っていることです。その技術を使って、例えば効率よく育つとか、機能性がより付与されるなどの品種改良が考えられます。また、コオロギにはエビやカニなどの甲殻類と類似した成分が含まれていることから、甲殻類アレルギーのアレルゲンを除去していくことも進めています。例えば、食品工場でコオロギ製品を作る場合、その工場全体や同じラインで作っている既存製品の食品表示ラベルを、甲殻類アレルギーを含む製品と同じラインで作っていると変更しなくてはなりません。それは食品メーカーにとって大きなコストなので、ハードルです。そこの問題は、これから我々としても突破して行かないといけないポイントになってくると思っています。

森:お菓子やラーメン、パスタなどの商品が発売されていますが、次にこんな商品を作っていきたいという目標はありますか。

渡邉:方向性としては、コオロギを生活の中で当たり前にしていくことを目標にしています。朝起きた時から寝るまで、商品を買って食べようと思えば手に取れる商品があるという状況を作っていきたいと思います。現在、お菓子と、主食や主菜になるカレーとパンを作りました。これからは、主菜になる商品のほか、食卓に並ぶ商品を増やしていきたいと思っています。例えば、朝ごはんとして食べられるような軽い食事のものから、夜寝る前にお酒を飲みながらおつまみにできるようなものとか、そういったものをラインナップとして取り揃えていければと考えています。

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食糧難に向けた挑戦 飢餓をゼロに

森:研究を始めるときに、日本でそれまで育てられていた農作物や生き物などが、そこの土地で住めなくなるような、大きな気候変動に繋がっていくだろうなということは感じていましたか。

渡邉:気候変動がどこまでインパクトがあるのかというのは、正直私はそこまで現状でも感じている部分ではありませんが、既に飢餓で苦しんでいる人がいるのは事実です。今食料が足りない分に加えて、人口増でさらに足りなくなるので、そこに貢献していくことかなと思っています。先進国では食品ロスが大量に出ており、発展途上国は途上国であるがゆえの食品ロスが大量に出ています。一方で、飢餓地域は食べるものがありません。途上国と先進国で出る食品廃棄物や食品ロスを使ってコオロギを育て、それによって先進国のタンパク質が飢餓地域に振り分けられていく。食品ロスで育てたコオロギを、育てた地域で食べるだけでなく飢餓地域に持っていくことができるようになるところで、貢献していこうと計画しています。

飼育方法

川原:美馬ファームでは、産卵から収穫までの生産とパウダー化を行っています。フタホシコオロギは亜熱帯や熱帯に生息する種なので、室温を30度程度に一定になるよう管理しています。飼育しているコオロギが外に出ると、生態系に影響を及ぼしてしまう可能性があるため、飼育室はしっかりと密閉しています。コオロギは8回脱皮して成虫になりますが、成虫になると味が落ちるので、8回目の脱皮直前で出荷します。おおよそ30日程度で出荷でき、ひとつのコンテナあたり、1,000匹程度と大量に飼育できることが、コオロギのメリットです。グリラスで扱うコオロギは、目が白いアルビノ種であることが特徴です。もし、施設外にいる在来種の混入や交配があると品質管理ができないため、混入した場合に見つけやすくなります。

森:餌は何を食べていますか。

川原:コオロギは雑食なので、ここではサプライチェーンの初期段階の食品ロスを餌にしています。具体的には、農業残さや加工残さを与えています。タンパク質危機と食品ロスの問題を同時に解決できることが、コオロギを使うメリットです。どれくらいの食品ロス削減につながったかは、ECサイトの各商品のページに記載しています。

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