事例紹介インタビュー 高温耐性品種米「あきさかり」の普及拡大へ

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台風一過の青空が広がるものの、残暑が厳しい2020年9月10日、徳島県学生地球温暖化防止活動推進員として活動を始めた、大島愛加さん、長井優奈さん、藤原志帆さんの3名が、名西郡石井町にある「徳島県立農林水産総合技術支援センター」を訪ねました。今回は、農産園芸研究課作物担当の安渕潤一さんから、米栽培への地球温暖化の「影響」とその「適応」についてのお話を伺うとともに、センター内の圃場を案内いただきました。

収穫前のあきさかり.JPG

米栽培への「地球温暖化」の影響

大島:猛暑や台風の巨大化、山火事など、地球温暖化による影響が世界的に問題となっています。農業はかなり気候の影響を受けると思いますが、その中でもお米の栽培への影響はありますか?

安渕:夏の高温による影響が大きく、高温障害として問題となっています。稲穂が出た後に高温にさらされると、白未熟粒(しろみじゅくりゅう)が多くなり、外観品質が悪くなります。多く発生すると検査等級が下がり、農家の収入も減ってしまいます。

長井:白未熟粒とはどんな状態のものですか?

安渕:玄米の充実が不十分で白濁している状態のもので、一言で言えば、栄養不足の状態です。米の主成分はデンプンですが、高温でデンプンの蓄積が不足して空隙ができ、光が乱反射して白く見えます。

デンプンの割合が下がることにより、相対的にタンパク質が増え、粘りが弱くなり、食味が下がります。精米時に割れやすいというデメリットもあります。

高温による影響(徳島県農林水産総合技術支援センター).jpg農林水産総合技術支援センター資料 

藤原:高温により品質が悪くなるとのことですが、気温との関係を具体的に教えてください。

安渕:稲穂が出た後に平均気温が26度を超えると、白未熟粒が出やすいと言われています。特に、これまで、県内の水稲作付けの3割を占めていた「キヌヒカリ」は高温に弱く、問題となっています。

このグラフを見て下さい。これは農林水産総合技術支援センターで計測した平均気温の平年値ですが、キヌヒカリを4月25日に植えた場合、稲穂が出てから収穫までは、概ね青い矢印で示した期間になり、常に26度以上の気温にさらされていることが品質低下の要因となっています。

平均気温の平均値(徳島県農林水産総合技術支援センター).jpg

藤原:例えばですが、田植えの時期をずらすことで、暑さへの対応はできないのでしょうか。

安渕:田植え時期を後ろにずらすほか、穂が出るのが遅い品種を栽培するなど、高温を避ける方法も有効です。ただ、栽培に必要な水を使用できる期間が限られている地域があるほか、兼業農家の方などは休みが取りやすいゴールデンウィーク頃に田植えを行うことが多いため、現実的には難しい場合もあります。

他の対策としては、高温耐性品種という暑さに強い品種の利用などがありまして、他の府県でも導入が広がっています。

高温耐性品種「あきさかり」の普及と今後の展開

大島:県内で高温耐性品種の利用はされていますか?

安渕:徳島県では、「あきさかり」という品種が栽培されています。福井県が育種し、平成23年に品種登録された品種で、徳島県では平成28年10月に奨励品種として採用し、普及を進めているところです。

長井:あきさかりは、高温に強いこと以外にどんな特長を持っていますか。

安渕:キヌヒカリとあきさかりの玄米と標本を用意しているので、比べてみてください。

キヌヒカリと比べて、稈長(かんちょう:地面から穂首までの長さ)は、6cm程度短く、台風などで倒れにくい特長を持っています。また、穂数が20%程度多く、収量は、20%程度多収となります。

かん長比較 (2).JPG

 

2種比較.JPG

大島:確かに、玄米を比較すると、あきさかりがキヌヒカリより、白濁が少ないのがよくわかりますね。穂も、あきさかりの方がしっかりしている印象ですが、おいしさはどうですか?

安渕:お米の好みは人それぞれだと思いますが、育種した福井県では、コシヒカリと同等の良食味であるとの評価がされています。

また、日本穀物検定協会という団体が、毎年、お米の食味ランキングを発表していますが、平成30年産のあきさかりは、徳島県産では初めて最高ランクの「特A」の評価を受けることができました。また、令和元年産も同様に特A評価となり、2年連続での高評価を受けています。

ここで実際に、あきさかりとキヌヒカリの食味と、白未熟粒を機械で計測してみましょう。お米の成分のうち、「タンパク質が7%以下」のものがおいしいと言われています。

成分計測中.JPG

HP計測結果.jpg

長井:タンパク質の割合は、あきさかりが6.2%、キヌヒカリは7.3%と出ていますので、1%以上違います。また、白未熟粒の割合は、あきさかりが3.5%、キヌヒカリが13.8%と、10%以上と圧倒的な差があります!驚きです。

藤原:あきさかりには利点が多いことがよくわかりました。最後に、農家の方への普及と今後の取組について教えてください。

安渕:ここと同じく県の組織である農業支援センターが中心となって、あきさかりの利点や特長を生かす栽培管理のポイントを周知しています。その結果、令和元年には、あきさかりの栽培面積がキヌヒカリを上回るなど、広く普及が進んでいます。

今後についてですが、あきさかりの利点を更に伸ばせるように、食味向上への取組や、徳島の風土や気候に適する品種の研究などを続け、徳島の米がブランドと言われるようにしていきたいと考えています。

農林水産総合技術支援センター資料

「とくしま米」ブランドの創出(徳島県農林水産総合技術支援センター).jpg

大島:今日は、あきさかりについてたくさん知ることができました。次に買うお米は、徳島県産あきさかりに決めました。

長井:県が開発したお米はまだ無いそうなので、今後、地球温暖化に対応できる新品種の開発も期待しています。

藤原:今日も猛烈な暑さですが、安渕さんは長袖ですし、汗もかいていないようですね。これも気候変動「適応」でしょうか。今日はありがとうございました。

全員撮影.JPG

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