事例紹介インタビュー 「水温の変化と適応について」

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2020年7月下旬、学生地球温暖化防止活動推進員として活躍している山田朔実(やまだこよみ)さんと川原直晃(かわはらなおあき)さんが、海部郡美波町にある「徳島県立農林水産総合技術支援センター水産研究課」を訪ねました。県南でのわかめ養殖を中心に、徳島県周辺の海水温の変化とその適応について、主任研究員の多田さんと安藤さんからお話を伺いました。

水温の変化とその影響

山田:「高水温・貧栄養化の現状と漁業への影響」の資料によると、播磨灘・紀伊水道・海部郡沿岸の 3か所の年間平均水温の変化に差が見られますが、この違いの理由は何ですか?

安藤:徳島県が面する3つの海域は、それぞれ特徴が異なるため、年間平均水温の変化に差が見られます。

まず、播磨灘は瀬戸内海の一部であり、紀伊水道や海部郡沿岸と比べると、陸地に囲まれた閉鎖性の高い海域で、水深も浅く、気温の影響を受けやすいです。

一方、海部郡沿岸は太平洋に面しているため、水温が高い黒潮やその分岐流の流れに影響を強く受けます。

紀伊水道は、播磨灘と海部郡沿岸の間に位置しており、黒潮からの外海系水と、瀬戸内海からの内海系水の勢力や流れ方に影響を受け、播磨灘と海部沿岸の中間的な性質を有します。

このような3つの海域の特徴によって、年間平均水温の変化に差が見られ、その海域環境を反映して、徳島県では内海・外海性の多種多様な魚介類が漁獲されます。

年間平均水温.png

 

図. 播磨灘、紀伊水道、海部沿岸の年間平均水温の変化

(漁業調査船とくしまの海洋観測データによる)

 

 

山田:3年ほど前に、県南の役場の方から、磯ではアラメやカジメというアワビのエサになる海藻が減る一方で、ウミウチワという海藻が増えて困っていると聞いたのですが、この3年間で、アラメやカジメ、ウミウチワという海藻の植生に変化はありましたか?

多田:アラメやカジメが減って、アワビや人にとって価値が低いウミウチワが増える傾向は変わっていませんが、最近、これらの海藻も減少し、岩肌が見えてくるようになる「磯焼け」と呼ばれる現象も進行しているように思います。

また、この例の他にも、海藻の植生(※生えている海藻の種類)が変化している場所があります。例えば、牟岐町から美波町にかけての沿岸では、アラメやカジメ、ホンダワラ等の大型海藻が減り、テングサ、ウミウチワ等の小型海藻が増加傾向にあります。

テングサは、寒天の原料として、漁業者が採取して販売できるなど一定の価値はありますが、そこに生息するアワビにとっては、テングサよりもアラメやカジメの方が良いエサであるため、生息環境としては悪化しているといえます。

期待される県南でのわかめ養殖

わかめ1.jpg←ウミウチワ

わかめ2.jpg←テングサ

山田:わかめ養殖のイメージは、ブランド「鳴門わかめ」にあるように「鳴門」ですが、最近は美波町由岐地区でもわかめ養殖を行なっているようです。これは気候変動と関係はありますか?また、由岐地区で営まれている漁業にも気候変動による変化はありますか?

多田:(由岐地区を含めて)海部郡の漁業は「獲る漁業」が主であり、トコブシを含むアワビ類、イセエビ、アオリイカ、タチウオ、カツオ・マグロ類などが主な漁獲物です。

しかし、近年は、沿岸水温の上昇や植食動物による食害の深刻化等によってアワビ類の餌場である藻場が衰退し、獲り過ぎも相まって、主力のアワビ類の資源が減少してしまいました。

一方、「作り育てる漁業」として養殖業がありますが、由岐地区を含め海部郡沿岸では台風等による波浪が強く、魚類養殖業を営むには重たいイカリや太いロープなどの資材に多大な経費を要します。

そこで、「獲る漁業」の漁獲減少に伴う収入減を補う漁業として、比較的安定した収入が見込めるわかめ養殖に着目しました。わかめ養殖は初期費用が少なく、施設の設置も比較的容易であり、養殖を実施する期間が11月から2月で海部郡沿岸では比較的波の穏やかな時期なので作業も安全に行えます。

また、11月から2月の由岐地区沿岸は、鳴門よりも水温が3~6℃高いので、高水温でも育つ品種を選んで使っています。このように、わかめ養殖は気候変動や獲り過ぎなどによって減少する漁獲量を補うため、地場の新たな収入源として重要です。

山田:わかめ養殖を行ううえで、注意することはありますか? 

多田:わかめは冬から春にかけて大きく生長するため、高水温では生長せず枯れてしまいます。海部郡沿岸の海水温は、鳴門と比べて大幅に高いので、養殖を開始する時の水温に注意する必要があります。

秋に水温が低下して、23℃を下回る時期を養殖(育苗)開始の目安にしています。このため、水温低下が遅れると、収穫時期も遅れて、生産量や品質にも影響します。

現在、由岐地区では、当センターで開発した高水温耐性のある品種を用いており、由岐地区におけるわかめ養殖に大きく貢献しています。

また、植食動物(イスズミやアイゴなどの魚類)による養殖わかめの食害が近年問題となっており、有効な食害対策をとることができれば、さらに、わかめの養殖生産は安定するでしょう。

由岐で養殖されたワカメ.png←由岐で養殖されたワカメ

食害を受けたわかめ.jpg↑食害を受けたわかめ

川原:南方系の魚が増えているようですが、この魚たちは、今後、徳島の海の主な魚となるのでしょうか?

安藤:私たちは、ヒラメ・カレイ類、イカナゴ類、アイナメなど分布の中心が冷たい海にあるものを北方系、これに対して分布の中心が赤道付近から日本より南の暖かい海にあるものを南方系と呼んでいます。

イセエビをはじめ、アイゴ、キダイ、ヘダイ、イトヨリダイ等の南方系魚種の漁獲量が増加していますが、これらの生物も新たな資源として、ブランド化、商品化などを、積極的に進めることで有効活用する動きもあります。

今後、地球温暖化が進み、水温が上昇すると、徳島の海でも南方系の魚は増えると予想されますが、気候の変動や黒潮の動き、漁獲の強さによっても資源は変動するので、漁獲量や海の変化をより正確にモニタリングしていくことが重要と考えています。

ハモも南方系の魚で、2000年以降漁獲量が増え、今では徳島県のブランド魚として地位を確立していますが、近年、漁獲量は減少傾向となり、持続的に資源を活用するためには資源管理が必要と考えています。

川原:ご説明をいただき、こちらのセンターで、気候変動に適応するため、様々な研究を行っていることがよくわかりました。ありがとうございました。

山田:温暖化は、世界中に様々な影響をもたらしていますが、身近な海でも海水温の上昇により、徳島県の魚類にも大きな影響があることが理解できました。施設の見学もさせていただき、有意義な訪問となりました。

徳島県立農林水産総合技術支援センター提供 高水温・貧栄養化の現状と漁業への影響.pdf (PDF 3.56MB)

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