Ⅲ 分野別の影響

1 県土保全[危機管理部・農林水産部・県土整備部]

1.1 影響に関連する本県の地域特性

本県は、県下全域が台風の常襲地帯であるとともに、急峻な地形や脆弱な地質のため、従来から、大規模な水害、土砂災害が繰り返し発生しています。

また、中山間地域においては過疎化・高齢化の進行により、農地や森林の保全活動が低下し、中山間地域が保有する水源かん養などの多面的機能の発揮に支障が生じています。

県内の土砂災害危険箇所

土砂災害により人家などの建物が被害を受ける可能性がある箇所
  • 土石流危険渓流 2,244箇所(全国34位)
  • 地すべり危険箇所 591箇所(全国4位)
  • 急傾斜地崩壊危険箇所 10,166箇所(全国12位)
  • 合計 13,001箇所(全国19位)

地域防災リーダーとなる「防災士」の登録者数:832人(平成25年現在)
(平成25年度新規取得者数(人口10万人あたり)全国10位)

1.2 気候変動の主な影響

(1)現況

【河川・沿岸 (洪水、高潮高波、海面上昇)】
徳島地方気象台の観測によると、日降水量が100ミリメートル以上の大雨の日数は西日本で増加しており、徳島でも増加傾向にあります。近年では、平成26年、27年と2年連続し、夏季に那賀川流域において豪雨による浸水被害が発生しました。

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徳島地方気象台における日降水量100ミリメートル以上の年間日数の経年変化(出典:徳島地方気象台作成資料)

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平成26年8月豪雨(那賀町和食・土佐地区)

また、海面水位については、長期的(1906年以降)には上昇傾向は見られないものの、現在の観測体制となった1960年以降は上昇傾向が明瞭に現れています。なお、「近畿~九州地方の太平洋側沿岸」においては、過去約50年で海水面が約1センチ上昇しています。

  1 2 3 4 4海域の平均
1960年~
2015年
1.2
[0.9~1.4]
1.0
[0.6~1.5]
2.3
[2.0~2.6]
1.2
[0.9~1.5]

各海域の年あたりの上昇率(ミリメートル/年)(出典:国土交通省気象庁ホームページ抜粋)

1:北海道・東北地方沿岸 2:関東・東海地方沿岸 3:近畿~九州地方の太平洋側沿岸 4:北陸~九州地方の東シナ海側沿岸

【山地・森林・農村】
近年、全国的に土砂災害が頻発し、農山村地域では地形的要因から、台風や集中豪雨など甚大な被害が発生しています。
特に、本県は地質が非常に脆弱であることから、県内に多数の地すべり地が分布しており、日本有数の地すべり地帯となっています。
また、年間降水量に比例し、県内の山地災害の被害は増加する傾向にあります。

徳島県の近年の土砂災害発生件数
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  • 過去12年間で、282件発生(年平均24件)

徳島県の降雨量と山地災害の状況
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【インフラ・ライフライン (交通・水道等)】
豪雨や山腹崩壊等による「線路の流出」や信号踏切の制御を行う「運転保安システム」の浸水事例、停電の事例等が確認されています。(※気候変動の影響との関連性は現段階では明確にはなっていません。)

また、台風等による高濁度原水や水源での藻類繁殖による異臭味の発生など、水道事業への影響が生じています。

県民等へのアンケート結果より
  • ゲリラ豪雨に伴う河川氾濫で道路、田畑、家屋の冠水(自治体)
  • 大型台風、ゲリラ豪雨等が多発した場合、電力設備の被害が懸念される(事業者)
  • 従来の台風シーズンに加え、初夏や晩秋に大雨による災害が発生(民間団体)
  • 1年を通じて災害に備えた排水対策、災害支援の人員体制の整備を実施(民間団体)

(2)将来予測

【河川】
全国の一級水系では、現在気候と比べ、将来気候において「年最大流域平均雨量が約1.1~1.3倍(※)」「基本高水を越える洪水の発生頻度が約1.8~4.4倍(※)」と予測されるなど、水害の頻発・激甚化が予測されています。

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出典:国土交通省「水災害分野における気候変動適応策のあり方について答申」より

 (※)SRES A1bシナリオを適用した4つの気候モデルについて、現在(前期RCM5:1990~1999年、後期RCM5:1979~2003)、将来(前期RCM5:2086~2095、後期RCM5: 2075~2099)の予測値の幅を示したもの。

また、本県においても短時間強雨の増加に伴い、今世紀末には、多くの地域で、河川の平均流量が「1.0~2.0倍」に増加する可能性が予測されています。

(出典:国立環境研究所「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究2014報告書」)

【沿岸】
全国的に、海面上昇による高潮や強い台風に伴う高波の増加、高潮や高波の偏差拡大による浸水被害リスクの増大が懸念されます。

また、30センチメートル、60センチメートルの海面上昇により、国内の砂浜の約5割、約8割が海岸侵食により消失との予測が示されています。

砂浜の消失による本県の予想被害額は、海面上昇30センチメートルで約0.8億円/年、65センチメートルで約1.6億円/年との予測も示されており、砂浜の侵食率が大きくなるにつれ、被害額も高くなっています。

(出典:土木学会論文集G(環境)「気候変動による砂浜侵食の地域別被害計測並びに適応政策の検討」)

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海岸侵食の事例(マーシャル諸島 海岸が侵食されている様子)

全国地球温暖化防止活動推進センターホームページより (http://www.jccca.org/)

【山地・森林・農村】
降雨条件(降雨量、短時間強雨)が厳しい予測となることに伴い、集中的な崩壊、がけ崩れ、土石流の頻発が予想され、農業用排水路等の生産基盤や、治山・林道施設の被害のリスク増大が懸念されます。

また、不在村森林所有者(※)の増加に伴い、管理不十分な森林が増加し、土砂災害防止機能など、森林の多面的機能の低下が懸念されます。(※居住地とは異なる市町村に農地・森林を所有している方)

さらに、台風の強大化、増加等に伴い、特に中山間地域における風倒木の増加が懸念されます。

【インフラ・ライフライン (交通、水道等)】
気候変動の影響との関連性は明確には判断しがたい面がありますが、将来、短時間強雨や台風の増大が予測される中、鉄道の運行等への交通面や電気・ガスなどのライフラインにおける影響が懸念されるほか、気温上昇や渇水の増加による水資源の枯渇や水質悪化等も懸念されます。

気候変動がインフラ、ライフライン等に及ぼす影響については、研究事例が少なく、今後引き続き、情報収集・調査研究を行う必要があります。

2 自然生態系[危機管理部、県民環境部、農林水産部、南部総合県民局、西部総合県民局、教育委員会]

2.1 影響に関連する本県の地域特性

本県は、吉野川の河口干潟、牟岐大島のコブハマサンゴをとりまくサンゴ生態系、剣山等の高山地域、黒沢湿原、海部川など、多種多様な生態系が存在しています。

本県に生息する野生生物種数

  • 植物:維管束植物(シダ植物、裸子植物、被子植物)約3,500種、高等菌類(キノコ)約600種、海藻 約240種
  • 動物:脊椎動物 約650種、無脊椎動物 約5,000種

県内の干潟等(1994年環境省調査)

  • 既存干潟:11箇所(124ha(うち河口干潟は105ha))
  • 藻場:196箇所(1,421ha)
  • 造礁サンゴ:9箇所(7.1ha)

2.2 気候変動の主な影響

(1)現況

【陸域生態系】
野生鳥獣による影響

野生鳥獣の分布域や生息数が拡大傾向にあり、特に積雪量の減少によりニホンジカの分布が高標高まで拡大し、脆弱な高標高自然林において特定の植物が消失しています。

生息密度の経年変化 (出典:第3期徳島県ニホンジカ適正管理計画書(平成27年5月29日変更))10.png
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吉野川南西ユニットにおいては、目撃効率、捕獲効率ともに上昇が認められ、特に剣山山系などの高標高域において密度の上昇が顕著であると考えられる。(南西ユニット…つるぎ町及び美馬市、東みよし町並びに三好市の吉野川以南を含む地域)

【沿岸生態系】
アカウミガメについて、近年、大浜海岸や蒲生田海岸等で上陸、産卵・ふ化率が減少傾向にあります。(※気候変動の影響との関連性は現段階では明確ではありません)
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また、サンゴについて、牟岐大島内湾において、平成20年頃から、海水温上昇によりオニヒトデ、巻き貝が大量発生し、コブハマサンゴやエダミドリイシサンゴ等、サンゴの食害が発生しています。

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写真上:オニヒトデ
写真下:巻き貝

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コブハマサンゴ(千年サンゴ)

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エダミドリイシサンゴ

【分布・個体群の変動】
現時点では、外来種の侵入・定着に関する具体的な事例等は確認できていません。

県民等へのアンケート結果より
  • 雑草の生育期間の延長、生物の冬眠時期の遅れ(民間団体)
  • 海水温の上昇、下降のどちらも、サンゴなど海中の生態系には悪影響(民間団体)

(2)将来予測

【陸域生態系】
野生鳥獣による影響

ニホンジカによる高山植物や希少野生植物の食害の進行など、生態系や生物多様性への影響が懸念されます。

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出典:「剣山地域の『ニホンジカ』による希少植物被害(剣山地域ニホンジカ等被害対策協議会)」より

自然林
ブナ林については、全国的に高標高地域にのみ分布し、県内では剣山系を中心に分布しています。四国・九州では、現在でもブナ林の適域面積は狭いですが、将来は他の樹種に変遷することが予想されています。

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ブナ林の分布と各気候条件において予測されたブナ林分布確率の分布
ブナ林の適域は、分布確率0.5以上(赤色)の地域である。
(出典)温暖化にともなうブナ林の適域の変化予測と影響評価(松井哲哉・田中信行・八木橋努・小南裕志・津山幾太郎・高橋潔)
RCM20…気象研究所が開発した地域気候モデル
MIROC…東京大学・国立環境研究所・海洋研究開発機構が共同開発している大気海洋結合気候モデル

さらに、気候変動による気温の変化に伴い、植物種について分布適域の変化や縮小が予測されており、県内においては、剣山系の高山地域(標高1,700m以上)にわずかに分布する「シラビソ」(シコクシラベ)は、愛媛県石鎚産が分布の南限と言われ、徳島県の絶滅危惧種に指定されていますが、植生域について、ほとんどがなくなる変化が予想されています。

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シラビソの様子(四国森林管理局ホームページより)

【沿岸生態系】
アカウミガメについて、砂浜の温度上昇によるふ化率の減少や子ガメの性比の変化が予測されるとともに、海面上昇による砂浜面積の減少により、産卵に適した砂浜(産卵場)が縮小する恐れがあります。

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ウミガメ産卵の様子(日和佐ウミガメ博物館ホームページより)

また、サンゴについては、海水温の上昇に伴い、より高温性の種への移行が予想され、それに伴い生態系全体に影響が及ぶ恐れがあります。

【分布・個体群の変動】
気候変動による外来種の侵入・定着に関する研究事例は現時点では確認されていないものの、今後、拡大することが懸念されます。

3 水環境・水資源[県民環境部・商工労働観光部・農林水産部・県土整備部・企業局]

3.1 影響に関連する本県の地域特性

吉野川及び那賀川水系を中心に、瀬戸内海、紀伊水道及びこれらに接続する内湾等の海域からなる多様な水環境を形成し、水道、水産、農業及び工業用水等に広く利用されています。

また、地形が比較的急峻で、降った雨が一気に海まで流れやすく、水量の変動が大きいため、渇水が起こりやすくなっています。

県内の一級河川

368河川(吉野川水系:293河川、那賀川水系:75河川)、総延長  約1,520キロメートル

県内の二級河川

129河川(39水系)、総延長 約440キロメートル

3.2 気候変動の主な影響

(1)現況

【水環境】
全国においては、公共用水域の水温は過去30年で上昇傾向と水質変化が指摘されています。瀬戸内海全体の表層の年平均水温について、経年的な上昇傾向が見られ、昭和56年度から30年間で、約1℃上昇しています。

また、県内の公共用水域及び地下水に係る水質については、平成26年度の測定結果では、生物化学的酸素要求量(BOD)又は化学的酸素要求量(COD)における類型指定水域の全ての水域において環境基準を達成しています。

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瀬戸内海の年平均水温の推移(出典「広域総合水質調査」(環境省)

【水資源】
年降水量は、年々変動が大きく、長期的な増減傾向は明瞭ではありませんが、日降水量1.0ミリメートル未満の日数(無降水日数)は、年々増加している傾向です。

また、雨の降り方の二極化等を原因として、吉野川や那賀川では、深刻な渇水が発生しています。

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(出典)徳島地方気象台作成資料

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平成25年7月、那賀川水系長安口ダム上流域で小雨の状態が続き、7月の降水量は過去42年間でワースト2を記録(出典)四国災害アーカイブス

近年における徳島県渇水対策本部の設置実績
平成26年度 H26.4.28~H26.5.23 26日間
平成25年度 H25.5.21~H25.6.26 37日間
H25.8.7~ H25.9.4 29日間
平成23年度 H23.4.15~H23.5.14 30日間
平成21年度 H21.5.15~H21.8.10 74日間

(2)将来予測

【水環境】
気候変動と水温、水質に及ぼす影響との相互関連は非常に複雑ですが、水温上昇により、植物プランクトンの増加等、水質悪化の恐れがあります。

【水資源】
無降水日数の増加をはじめとする雨の降り方の変化により、河川の流況等の変化や渇水の頻発化が懸念されます。

また、渇水の頻発、深刻化は、生態系や水産業、水利用者等へ影響を及ぼすことが懸念されるとともに、地下水の採取が過剰となれば、塩水化が生じる恐れがあります。

4 健康[危機管理部、県民環境部、保健福祉部、教育委員会]

4.1 影響に関連する本県の地域特性

本県は全国に比べて高齢化率が高く、熱中症等の危険性が高いハイリスク者の占める人口割合が多い状況となっています。

  • 徳島県高齢化率:30.1%(全国6位;全国平均26%)※平成26.10現在
  • 県内小中学校の空調(冷房)設備設置状況:29.4%(全国平均29.9%) ※平成26.4現在

4.2 気候変動の主な影響

(1)現況

【暑熱(熱中症)】
日最高気温と熱中症患者発生率の関係では、暑さ指数(WBGT)が28℃(厳 重警戒)を超えると熱中症患者が著しく増加する状況が示されています。

日最高WBGTと熱中症患者発生率の関係(環境省熱中症予防サイトより)
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暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的とした指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい1湿度、2日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、3気温の3つを取り入れた指標です。

各年の気象状況にもよりますが、県内の熱中症搬送者数は近年、増加傾向にあります。搬送者数のうち高齢者が半数以上を占めているほか、学校管理下における児童生徒の搬送例も有ります。

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県内の熱中症による救急搬送者数(単位:人)
棒グラフ:各年6月~9月の救急搬送者数
折れ線グラフ:上記のうち、高齢者の搬送者数(H24のみ7~9月実績)

※参考:各年8月の日平均気温(気象庁ホームページより)
H23 H24 H25 H26 H27
28.3℃ 28.5℃ 29.0℃ 26.5℃ 27.6℃

【感染症】
「デング熱」について、県内での発生例はありませんが、平成26年8月以降、国内での感染事例が発生しています。

また、高温多湿に伴い感染症が増加しています。

【その他健康への影響】
光化学オキシダントの濃度が高くなると、目やのどが痛くなる場合があります。

県内においては、光化学オキシダント濃度の急激な上昇による緊急時報の発令は、平成20年の注意報発令以降ありません。

県民等へのアンケート結果より
  • 屋内外を問わず、運動量、運動強度、運動時間等の制限が必要(民間団体)
  • 熱中症計の無料貸出、情報注意の啓発、日避け扇風機等の増設を実施(民間団体)
  • 熱中症予防の啓発運動、対応した医薬品の開発(事業者)
  • 屋内施設(体育館等)への冷房完備が必要(民間団体)

(2)将来予測

【暑熱】
今後の気温上昇に伴い、県内の熱中症搬送者数は約2倍、熱ストレス超過死亡数は約3倍に増加することが予測されています。

熱中症の将来予測:2031~2050年(RCP8.5)
都道府県 熱中症搬送数
(基準期間に対する比)
熱ストレス超過死亡数
(基準期間に対する比)
徳島県 1.8 3.1

 (出典:環境省「S-8温暖化影響・適応研究プロジェクトチーム2014報告書」)

【感染症】
県内におけるヒトスジシマカの生息可能域は、今世紀末に向け、拡大傾向の予測がなされています。これまで未発生の感染症の発生や、感染症の増加が懸念されます。

ヒトスジシマカ分布域予測図(出典:環境省「S-8温暖化影響・適応研究プロジェクトチーム2014報告書」)

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(基準期間:1981~2000年)

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(2031~2050年)

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(2081~2100年)

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ウイルスに感染した患者を蚊が吸血すると、蚊の体内でウイルスが増殖し、その蚊が他者を吸血することでウイルスが感染します(蚊媒介性)。

【その他健康への影響】
光化学オキシダントなど大気汚染の要因物質の濃度は、気温、風速、日射等気象条件に大きく左右され、今後の気温上昇により、濃度の変化、健康面へ影響が生じる恐れがあります。

5 産業経済[県民環境部、商工労働観光部、県土整備部、南部総合県民局、西部総合県民局]

5.1影響に関連する本県の地域特性

恵まれた自然や文化など優れた観光資源を多数有しているとともに、県南部や県西部をはじめとする多様な体験型観光を推進しています。

本県の延べ宿泊者数
平成26年度 287万人、対前年伸び率27.1%(全国1位)

5.2気候変動の主な影響

(1)現況

【産業経済・文化】
現時点では、産業経済及び文化の分野における具体的な事例等は確認できていません。

【観光】
豪雨等に伴う国道、県道の通行止めにより、観光地やホテル・旅館へのアクセスが困難となる事例が発生しています。

県民等へのアンケート結果より
  • 市内観光施設全般に当たる事として、主に夏の大雨による増水、冬の積雪等により道路の通行止めや営業中止等が起こっている。(自治体)
  • 水温の上昇、下降のため、海水がにごったりサンゴの死滅等がありシュノーケリングやダイビング等のマリンスポーツにおいて悪い環境になるおそれがある。(民間団体)
  • 熱中症に対応した医薬品の開発(事業者)

(2)将来予測

【産業経済】
平均気温の上昇によって、企業のサプライチェーン(生産過程、生産物の販売、生産施設の立地など)に影響を及ぼすことが予想されています。

影響によるプラス面
地球温暖化に対応する製品や技術に対する需要の増加が予想され、ビジネスチャンスの可能性が拡大するとの見方も示されています。

【文化】
本県ならではの工芸品である「藍染め」や「阿波しじら織」、「大谷焼」等に気候変動が影響を及ぼす恐れがありますが、現段階では研究事例はなく、今後引き続き、情報収集・調査研究を行う必要があります。

【観光】
海面水位や温度の上昇、海岸侵食の拡大により、沿岸部でのレジャーが縮小する懸念があります。本県においても、海面が65センチメートル上昇した場合、最大5.2㎢(県全体面積の約0.1%)の砂浜が侵食されることが予測されています。

(出典:最新の海面水位予測データを用いた海面上昇による全国砂浜侵食量の将来予測(土木学会論文集G(環境))

また、全国的に見ると、2031年~2050年にはほとんどのスキー場で積雪量が減少し、2081年~2100年になるとさらに減少することが予想されています。滑走可能日数は、2031年~2050年になると現状の約3分の1、2081~2100年になると約6分の1に減少することが予測されており、県内においても滑走可能日数の減少が懸念されます。

(出典:地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測(中口毅博))

影響によるプラス面
四国を始め、近畿、中国、九州地方などにおいては、気温の上昇により、冬の観光快適度(TCI)が上昇すると推測されており、冬季を中心とした観光資源やシーズンの拡大の可能性が期待できます。
(出典:地域スケールの気候変動予測と観光快適性指標を用いた影響評価)

また、地球温暖化への適応に係る対策を充実強化することにより、本県へ移住する人口の増加が期待されます。

6 農林水産(食料) [農林水産部]

6.1 影響に関連する本県の地域特性

恵まれた自然環境の下、多種多様な農林水産物が生産されています。また、関西圏の食材の産地として、本県の農林水産物が関西市場において高いシェア率を占めています。

大阪中央卸売市場における本県の野菜の販売金額(平成27年) 第2位(約125億円)
(すだち、れんこん、カリフラワー等多くの徳島県産の品目が入荷量シェア第1位を占める。)

6.2 気候変動の主な影響

(1)現況

【農業】

水稲
登熟期における高温化の影響により「白未熟粒」の発生による品質低下が発生しています。県内で栽培される主要品種(キヌヒカリ)の一等米比率は、39%(2003~2005年平均)から27.8%(2013~2015年平均)に減少しています。

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キヌヒカリの一等米比率

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〈白未熟粒〉 稲穂が出て開花・発育する「登熟期」の気温上昇により、米の内部が白く濁ります。

果樹
成熟期の高温化により、ぶどうの着色不良や、温州みかんの浮き皮・日焼け果 など品質低下が発生しています。

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〈みかんの浮き皮〉

果皮と果肉が分離する症状で、品質や貯蔵性を低下させ、腐敗果の発生を増加させます

影響によるプラス面
ハウス栽培における暖房コストの低減や、みかんを樹上で完熟させる栽培が可能になりました。

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ハウス栽培

園芸作物
生育期間の高温によるイチゴの花芽分化の遅延が発生しています。

畜産
乳用牛の乳量、乳成分、繁殖成績の低下や肉用牛・肉鶏の増体率の低下が発生しています。

病害虫
水稲や果樹に被害をもたらす害虫・ミナミアオカメムシの分布域が拡大しています。

農業生産基盤
台風や集中豪雨による農地の湛水や農地・農業用施設等の被害が発生しています。

【水産業】

漁船漁業
南方系魚種の増加や北方系魚種が減少するとともに、藻食性生物の食害を原因とする藻場減少に伴い、アワビなどの漁獲量が減少しています。

影響によるプラス面
ハモ、アシアカエビ等、南方系魚介類の漁獲量が増加傾向にあります。

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とくしまのブランド魚ハモ

養殖業
養殖ノリやワカメは、養殖開始時期の遅れなどにより、収穫量が減少しています。

漁港漁村
気候変動による中長期的な海面水位の上昇や強い台風の増加等による高潮偏差 ・波浪の増大により、高波被害、海岸侵食等のリスクが増大しています。

県民等へのアンケート結果より
  • 大雨や日照不足でお茶の天日干しができない等、農作物への影響(自治体)
  • 木の実(サクランボ、ザクロ等)が熟する時期が1ヶ月くらい早くなった(民間団体)
  • 例年11月頃寒い風が吹く頃に干し柿をするが今年も11月に干したが温暖なためカビで全滅した(民間団体)

(2)将来予測

【農業】

水稲
現在(平成27年)より3℃を超える高温では、収量の減収が予測されます。また、高温耐性品種への転換が進まない場合、一等米比率の低下が予測されます。

果樹
温州みかんの栽培適地が年次を追うごとに北上するものと予測されます。また、ブドウは高温による生育障害の発生が予想されます。

園芸作物
栽培時期の調整や適正な品種選択により、栽培そのものが不可能になる可能性は低いと想定されます。
さらなる気候変動が野菜の計画的な出荷を困難にする恐れがあります。

畜産
温暖化の進行に伴って、飼料摂取量の減少等により、家畜の成長への影響が大きくなると予測されます。

病害虫
水田での害虫・天敵構成の変化や、年間世代数の増加による被害の拡大、海外からの飛来状況が変化する恐れが指摘されています。

農業生産基盤
降雨強度が増加し、農作物及び農地やため池など農業用施設等に被害が発生するリスクが増大する恐れがあります。

影響によるプラス面
飼料用トウモロコシなど、高温化により、作物の成長が早期化する可能性があります。

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飼料用トウモロコシ

【水産業】

漁船漁業
高水温を原因とする漁獲量の低下が予測される種もあります。
海水温の上昇による藻場の構成種や現存量の変化により、アワビなどの磯根資源の漁獲量が減少すると予測されています。

〇養殖業
ブリ養殖では、高水温化による夏季のへい死率増加が懸念されます。
マダイ養殖では、高水温化により成長の鈍化や感染症発症リスクの増大が指摘 されています。

影響によるプラス面
ブリ養殖において、秋冬季の成長促進が予測されます。
播磨灘の養殖ブリの県南域等への避寒が不要になり、養殖に係る省力化が期待されます。

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養殖ブリの生け簀

〇漁港漁村
台風の増加等による高潮偏差・波浪の増大により、物揚場等の天端高(構造物 の上端の高さ)が低く、海面との差が小さい係留施設や荷さばき所等が浸水し、漁港機能に影響を及ぼす恐れがあります。

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