1 地球温暖化の進行及びその対応
1.1 国際的な状況
(1)「IPCC」による評価報告書
地球温暖化については、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を中心として、科学的知見の集積が進められており、2013年9月から2014年11月にかけて、第5次評価報告書が公表されました。
- 平成25年9月 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)
- 平成26年3月 第2作業部会報告書(影響、緩和、脆弱性)
- 平成26年4月 第3作業部会報告書(緩和策)
- 平成26年11月 統合報告書
- 第4次評価報告書 (2007年)
- 第3次評価報告書 (2001年)
- 第2次評価報告書 (1995年)
- 第1次評価報告書 (1990年)
(2)「IPCC第5次評価報告書」の内容
第5次評価報告書では、気候変動の現状と将来予測について、次のように報告されています。
- 過去132年(1880年~2012年)の間に世界の平均気温は「0.85℃」上昇、1901年から2010年において平均海面水位は約0.19m上昇した。
- 二酸化炭素(CO2)濃度は工業化以前と比べて40%増加した。
- 気候システムの温暖化は疑う余地がない。
- 20世紀半ば以降に観測された気候変動は、人間による影響がおもな要因である可能性が極めて高い(95%以上)。
- ここ数十年、気候変動の影響が全大陸と海洋において、自然生態系及び人間社会に影響を及ぼしている。
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(出典)AR5WG1政策決定者向け要約FigSPM.1
気候モデルによって予測された今世紀末の世界の平均気温は、どのようなシナリオにおいても現在より上昇する結果となっており、最大「4.8℃」の上昇が予想されている。
全てのシナリオにおいて海面水位が上昇し続けるとされており、今世紀末には、世界平均海面水位は最大「82センチメートル」の上昇が予想されている。
海洋酸性化についても世界的な進行が懸念されており、今世紀末には、世界の平均海面pHは、最大「0.32」進むことが予想されている
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RCP8.5:有効な気候変動対策がとられないシナリオ
RCP2.6:非常に多くの気候変動対策がとられた場合のシナリオ
「気候システムに対する危険な人為的干渉」による、将来の深刻な影響の可能性として、次の8つのリスクが挙げられる。いずれのリスクも確信度は高く、複数の分野や地域に及ぶとされている。
1 | 沿岸災害被害 | 海面上昇、沿岸での高潮被害等によるリスク |
2 | 洪水・健康被害 | 大都市部への洪水による被害のリスク |
3 | インフラ機能停止 | 極端な気象現象によるインフラ等の機能停止のリスク |
4 | 暑熱影響 | 熱波による、特に都市部の脆弱な層における死亡や疾病のリスク |
5 | 食糧不足 | 気温上昇、干ばつ等による食料安全保障が脅かされるリスク |
6 | 水不足 | 水資源不足と農業生産減少による農村部の生計及び所得損失のリスク |
7 | 海洋・沿岸生態系の損失 | 沿岸海域における生計に重要な海洋生態系の損失リスク |
8 | 陸域・内水生態系の損失 | 陸域及び内水生態系がもたらすサービスの損失リスク |
1.2 県内の気候変動の状況
(1)これまでの気候変化
徳島(徳島地方気象台)の年平均気温は、100年あたり「約1.39℃」の割合で上昇しています。(統計期間:1892~2014年)
徳島の気温の上昇には、地球温暖化に伴う長期的な上昇傾向に、都市化に伴う昇温の影響や数年から数十年程度の時間スケールで繰り返される自然変動が重なっていると考えられます。
徳島の年平均気温の経年変化(統計期間1892~2014年)(出典:徳島地方気象台作成)
折れ線(桃)は各年の値、折れ線(青)は5年移動平均、黒の横太線は基準値(1981~2010年の平均値)、赤の直線は長期的な変化傾向を示す。
はっきりとした長期的な変化傾向は見られませんが、1980年以降は年降水量が1000ミリを下回る年が10年に1~2回あったり、2004年には年降水量が観測史上2番目に多い2628.5ミリを記録するなど、近年は変動の幅が拡大しています。
徳島の年平均気温の経年変化(統計期間1892~2014年)(出典:徳島地方気象台作成)
折れ線(青)は各年の値、折れ線(紫)は5年移動平均、黒の横太線は基準値(1981~2010年の平均値)を示す。
(2)今後の気候変化の見通し
21世紀末には、年平均気温は、「2.5℃~3.0℃前後」の上昇が予想されており、これは現在の年平均気温では、徳島と屋久島(鹿児島県)の差に相当します。
徳島の年平均気温 現在:16.6℃ → 将来:19.5℃
(屋久島の現在:19.4℃)
なお、季節別では、冬の上昇度が最も大きく、夏の上昇が最も小さくなっています。
(出典)気象庁 地球温暖化予測情報第8巻より
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棒グラフは将来気候と現在気候との差(ひげは年々変動の標準偏差)
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年平均気温の変化(将来気候の現在気候との差)
年降水量の増加が予想されるとともに、1時間降水量50ミリメートル以上の発生回数は、東日本から西日本の太平洋側で増加傾向が明瞭になっています。
その一方、無降水の日数についても増加傾向にあります。
(出典)気象庁 地球温暖化予測情報第8巻より(棒グラフ:現在気候(灰)、将来気候(赤))
1.3 国際的な適応の取組み
(1)「COP」における適応策の取組み
適応については、2010年国連気候変動枠組み条約第16回締約国会議(CO P16)で採択されたカンクン合意において、全ての締約国が適応対策を強化するため、適応委員会の設立等を含む「カンクン適応枠組み」が合意されました。
また、2014年の第20回締約国会議(COP20)で採択された「リマ声明」では、2020年以降の新たな気候変動の新たな国際枠組みにより、適応行動を強化していくとの認識が示されました。
さらに、2015年末に開催された第21回締約国会議(COP21)において、歴史的合意とされる「パリ協定」が採択されました。同協定は、世界共通の長期目標として、気温上昇を2℃未満にすることを掲げ、全ての国は温室効果ガス排出の削減目標を定めて取り組むという「緩和」に関する事項に合意することに加え、次のような「適応」に関する事項も盛り込まれました。
COP21「パリ協定」 ※適応に関する事項
- 適応能力を拡充し、強靭性を強化し、脆弱性を低減させる世界的な目標を設定
- 各国は適応計画プロセス・行動を実施。適応報告書を提出・定期的に更新
(2)各国における適応策の取組み
諸外国においては、次のような気候変動の影響の評価及び適応計画策定の取組みが進められています。
- 「世界規模の気候変動の合衆国における影響」を公表(2009年)、改訂(2014年)
- 「今後の適応策の取組の方向性を示した大統領令」を公布(2013年)
- 「オランダにおける気候変動影響」を公表(2005年)、改訂(2013年)
- 「国家気候適応・空間計画プログラム」を公表(2007年)
- 「韓国気候変動評価報告書」「国家気候変動適応マスタープラン」を公表(2010年)
一方、開発途上国では気候変動の影響に対処する適応能力が不足していることか ら、開発途上国が適切に適応策を講じていけるよう、気候変動枠組条約内外の関係 機関を通じ、適応に関する様々な支援が行われています。
1.4 国及び本県における適応の取組み
(1)国の取組み
IPCCの最新の科学的知見や国際的な動向を踏まえ、第三次環境基本計画(平成18年4月閣議決定)において、適応策のあり方に関する検討や技術的な研究を進めること、研究の成果を活用しながら国において必要な適応策を実施することなどが定められました。
これを受け、文部科学省をはじめ関係省庁において、各分野における気候変動の影響評価や対策に係る調査研究が行われてきました。
- 「気候変動適応研究推進プログラム」(H22~)
- 「気候変動リスク情報創生プログラム」(H24~)
- 「気候変動適応技術社会実装プログラム」(H27~)
- 「異常気象レポート」発刊(S49~)
- 「気候変動監視レポート」(H8~)
- 「地球温暖化予測情報第八巻」公表(H25)
- 「温暖化の危険な水準及び温室効果ガス安定化レベル検討のための温暖化影響の総合的評価に関する研究(S-4)」(H17~)
- 「温暖化影響評価・適応政策に関する総合研究(S-8)」(H22~)
第四次環境基本計画(平成24年4月閣議決定)においては、影響の把握・科学的知見の収集・共有を図るとともに、短期的・中長期的に適応策を推進するための検討を進めることなどが定められました。
こうした政府の方針を踏まえ、平成25年7月に中央環境審議会地球環境部会のもとに気候変動影響評価等小委員会が設置され、気候変動が日本に与える影響の評価について審議が行われました。平成27年3月には、中央環境審議会より「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について」が取りまとめられ、環境大臣に意見具申がなされました。
その後、農林水産省をはじめとする関係府省庁において、これまでの気候変動に係る調査研究の結果を踏まえつつ、適応計画の検討が開始され、平成27年9月に、気候変動の影響への適応に関する関係府省庁連絡会議が設置され、政府として初の気候変動の影響への適応計画が策定されました。
(2)県の取組み
本県においては、IPCC第4次評価報告書の公表を受け、平成23年8月に策定した「徳島県地球温暖化対策推進計画」における「中期的取組」の1つに「賢い対応(適応)」を掲げ、適応に係る今後の取組みの方向性及び、「自然生態系分野」「森林における病害虫の被害対策、森林保全対策」「食料分野(農林水産分野)」「健康分野」の各分野の主な施策について定めました。
また、「第2次徳島県環境基本計画」(平成25年12月策定)では、「地球温暖化対策の総合的な推進」の取組みの1つとして、防災対策をはじめとする各分野ごとの対策を調査研究、実践へと取組みを進めていくこととしており、重点取組に指定をしています。
さらに、平成27年7月に「徳島県地球温暖化対策推進計画」の重点プログラム(平成27年から平成30年までに重点的に取り組むべき項目)の見直しを行い、「重点分野1スマート社会づくりの推進」において、県内の気候変動の現状や影響に係る情報収集を行い、県民等への普及啓発を図っていくこととしています。
<参考>近年の国及び本県における適応に係る取組み
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2 「適応策」の必要性
2.1 厳しい将来予測
IPCC第5次評価報告書では、「将来、温室効果ガスの排出量がどのようなシナリオをとったとしても、世界の平均気温は上昇し、21世紀末に向けて、気候変動の影響のリスクが高くなる」と予測されています。
こうした気候変動に適切に対処していくには、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和策」のみならず、既に現れている影響や中長期的にさけられない影響に対して適切に対応する「適応策」を進めることが求められています。
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世界の平均気温の変化の予測
(出典)AR5 WG1 政策決定者向け要約 SPM.7
2.2 地域により異なる影響
気候変動の影響は、地勢、産業、人口構成等の地域特性によって異なり、各地域の有する脆弱性に応じ、影響の内容や規模に様々な差異が生じます。
したがって、適応策は地域の特性を踏まえ、地域において主体的に取り組むことが重要となります。
<本県の主な地域特性>
地理的特性
本県は、四国の東南部に位置し、山地が多く県土面積のおよそ8割を占めている。四国第2の高山である剣山(1,955m)を中心とした四国山地が県を南北に分け、県の北辺には讃岐山脈が走り、香川県との境をなしている。この両山地の間を縫って吉野川は、水源を高知県に発し三好市池田町から東流するにつれ、広くくさび型となって農業の中心地帯である徳島平野を形成している。
本県の地質構造は、東西に中央構造線、仏像構造線などの構造線が走り、北から、和泉帯、三波川帯、秩父帯、四万十帯に分けられる。和泉帯は風化されやすい砂岩から形成されている。三波川帯は古生層が変成作用を受けてできた結晶片岩から成り、深部まで基岩が破砕され、地質が非常に脆弱となっている。
森林が県土の4分の3にあたる314千ヘクタールを占める森林県であり、森林の所有管理形態は、国有林が全体の6%、県や市町村有林等の公有林が12.8%、私有林が81.2%となっている。
県内総生産 (資料:平成25年度県民経済計算推計)
平成25年度の県内総生産は、名目2兆9,371億円、実質3兆1,431億円となっており、経済成長率で見ると、名目4.2%増、実質3.6%増となり、名目・実質ともに2年ぶりのプラス成長となっている。
- 第1次産業 612億円(2.1%)
- 第2次産業 9,337億円(31.8%)
- 第3次産業1兆9,161億円(65.2%)
産業別に分類できない項目があるため、上記額と一致しない。また、構成比の合計は100%にならない。
製造品出荷額等 (資料:平成26年工業統計調査)
平成26年の製造品出荷額は、平成23年以降、増加が続いており、前年に比べ4.2%増加している。
生産農業所得 (資料:2015グラフで見るとくしまの農林水産業)
平成25年の農業産出額は984億円となっており、前年から約7%の減少となっている。部門別では、野菜の占める割合(37.4%)がもっとも高く、次いで畜産(26%)、米(13%)、果実(10.5%)の順になっている。
漁業・養殖業生産量 (資料:2015グラフで見るとくしまの農林水産業)
海面、内水面ともに平成25年の漁業・養殖業生産量は前年より減少している。漁獲量・収穫量の全国順位が高い魚種としては、養殖わかめ類(第3位)、あわび類(第5位)、養殖あゆ(第7位)、たちうお(第9位)等があげられる。
人口の規模(平成22年国勢調査)
平成22年10月1日現在の徳島県人口は、「785,491人」(全国44位)で、平成17年~22年の人口は3.0%減少している。
- 0~14歳(年少人口)12.4%(全国平均:13.2%)
- 15~64歳(生産人口)60.6%(全国平均:63.8%)
- 65歳以上(老年人口)27.0%(全国平均:23.0%)
北島町(4.6%増)、藍住町(3.3%増)、松茂町(1.0%増)の3町で増加。21市町村で減少。